++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
このメールマガジンは、世界の最新研究・施術、薬とサプリメントなどの
医療の未来動向を読み解く
【高城未病研究所】が、毎週火曜日にお届けする
高城剛主筆のレポートです。
国内ではあまり紹介されていない海外の最新情報を、
できるだけ早くお伝えいたします。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃高┃城┃未┃病┃研┃究┃所┃【Future Health Lab】
Vol.000
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
/ 2026年7月1日発行 /
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
… 1. 高城式健康術
… 2. 世界先端の医療論文
… 3. 数値を読む
… 4. 試した一品
… 5.「病」との対話
… 6. Q&Aコーナー
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
■ 1. 高城式健康術
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
主筆高城剛は、毎週のように世界を移動して医師と対話を続け、あらゆる学会に参加しています。
まずは、いまどのような健康法に注目し、なにを見て、どう思っているのかを、お知らせしたいと思います。
…………………………………………………………………………………………………
今週から、新しいメールマガジン「高城未病研究所」を、新しい試みに果敢に挑戦する十人の医師たちとともにスタートすることになりました。最初に、これから何を語っていくのか、その土台となる考え方を僕なりにお伝えしておきたいと思います。
未病という言葉があります。まだ病ではないけれど、健康そのものでもない。検査の数字には異常が出ないのに、なんとなく調子が悪い。眠りが浅い、午後になると頭が働かない、季節の変わり目に決まって体調を崩す。こうした「病名のつかない不調」は、これまでの医療がもっとも苦手としてきた領域です。
なぜなら、近代医療は病気を見つけて治すために発達してきたものであり、まだ病気になっていない人をどう扱うか、という問いにはほとんど答えを持っていないからです。
僕自身、この数年自分自身の身体を実験台にして、血液等のバイオロジカルデータの他、徹底的に自分で取れるデータを集め続けてきました。睡眠中の心拍変動、深部体温の変動、血糖値の二十四時間の揺らぎ、自律神経のバランス。複数のウェアラブルデバイスを同時に身につけ、夜中に決まった時間に目が覚めるのはなぜか、午前中に訪れる気だるさの正体は何か、といった問いをひとつずつ追いかけてきました。そうやって自分という「N=1」の症例を見つめ続けるだけでなく、およそ3000人が参加してくださっているヘルスケアサービス「8weeks.ai」のデータを見るうちに、ひとつの確信に至りました。人間の身体は、三つの異なる層が重なり合って成り立っているということです。僕はそれを「天地人理論」と名付けました。
はじめの天とは、時間のことです。
人間の身体には、太陽の動きに合わせて刻まれる体内時計があります。脳の奥にある視交叉上核(SCN)という小さな神経核が、全身の細胞に「今は朝だ」「もう夜だ」という号令を送り続けている。ホルモンの分泌も、体温も、消化機能も、免疫の働きも、すべてこの一日のリズムに従って上下しています。ところが現代の私たちは、夜中までスクリーンの光を浴び、時差を超えて飛行機で移動し、不規則な時間に食事をとる。こうして体内時計は少しずつ狂っていきます。そして体内時計の乱れは、自律神経の乱れに直結します。
未病の入り口は、ほとんどの場合この「天」の層にあります。睡眠の質が落ち、自律神経のバランスが崩れ、回復力が低下する。血液検査では何も出ないのに調子が悪いという状態の多くは、時間軸の乱れから始まっているのです。だからこそ、まずこの層を整えることを最優先に考えます。何を食べるか、どんなサプリメントを摂るかよりも前に、いつ眠り、いつ光を浴び、いつ食べるか。時間こそが、健康の最初の鍵なのです。
次の地とは、共生のことです。
私たちの身体は、決してひとりだけのものではありません。腸のなかには百兆を超える微生物が棲み、皮膚の上にも、口のなかにも、無数の生命が共に暮らしている。彼らは私たちが食べたものを発酵させ、ビタミンを作り、免疫を訓練し、ときには気分を左右する物質まで生み出します。私たちが「自分」だと思っている存在は、実は人間の細胞と微生物の細胞が混ざり合った、ひとつの生態系なのです。
そしてこの生態系の中心には、もうひとつの「他者」がいます。ミトコンドリアです。かつて独立した細菌だったものが、太古の昔に私たちの細胞のなかに棲みつき、エネルギーを生み出す発電所となった。疲れやすさ、回復の遅さ、慢性的な不調の多くは、この共生のネットワークがうまく機能していないことに由来します。地の層を整えるとは、自分のなかに棲む無数の生命と、いかに良い関係を結ぶか、ということに他なりません。
そして人とは、細胞のことです。
そのひとが生まれ持った設計図、すなわちゲノムです。どんな酵素を効率よく作れるのか、どんな栄養素を代謝しにくいのか、どんなストレスに弱いのか。それは一人ひとり異なっていて、生涯変わることがありません。僕はこれを、その人固有の自然の秩序だと考えています。ある人にとっての最適な食事や生活が、別の人にとっては毒になりうる。万人に効く健康法など存在しない、という当たり前の事実が、ゲノムを見ると鮮やかに見えてきます。
ただし、ここで大切なのは順番です。ゲノムは確かに重要ですが、それは変えられない「ストック」です。一方で、時間のリズムや微生物との関係は、日々変化する「フロー」であり、私たちが働きかけることのできる領域です。だから僕は、天から地へ、そして人へと、上流から順に整えていくことを基本とします。変えられないものを嘆くより、今日から変えられるものに手をつける。それが未病に向き合う、もっとも現実的な道筋だと思うのです。
天と地と人。時間と、共生と、細胞。この三つの軸が重なり合うところに、その人だけの健康のかたちが立ち現れます。このメールマガジンでご一緒する十人の医師たちは、それぞれが異なる専門と臨床の現場を持っています。脳を診る者、腸を診る者、ホルモンを診る者、神経を診る者。彼らの知見を、この「天地人」という一枚の地図のうえに重ねていく。それがこのメールマガジンの試みです。
未病とは、病の手前の暗がりではありません。むしろそこは、私たちが自分の身体ともっとも深く対話できる、いちばん豊かな場所なのだと僕は確信しています。これから毎週、その具体的な方法を、最新の科学と臨床の現場からお届けしていきます。
今後ともよろしくお願いいたします!
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
■ 2. 世界先端の医療論文
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
日本で読むことができる大手出版社の医療および健康関連の記事の9割は、日本国内のニュースだけで構成されています。
しかし、このグローバル化した世界、特に医療の世界では、一国だけで完結することはありません。
このコーナーでは、世界を俯瞰的に見ながら、日本人にも必要な最新の医療知識をお届けしたいと思います。
……………………………………………………………………………………………………………………
「膵臓がんの生存期間を約2倍に延ばす画期的な経口薬が登場」
2026年5月末から6月初めにかけて米国シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO 2026)にて、膵臓がん治療の歴史を変える可能性のある結果が発表され、会場はスタンディングオベーションに包まれました。
発表されたのは、Revolution Medicines社が開発したダラクソンラシブ(daraxonrasib)という経口のRAS阻害薬による第3相試験「RASolute 302」の最終結果で、対象は、すでに化学療法を受けたことのある転移性膵管腺がん患者約500名です。
従来の標準的な化学療法と比較して、全生存期間の中央値が約6.6~6.7ヶ月から13.2ヶ月へとほぼ2倍に延長され、死亡リスクを約60%低下させることが示されました。無増悪生存期間や腫瘍縮小効果、生活の質(QOL)の面でも有意な改善が確認され、副作用による治療中断率も低く抑えられた点が特に評価されています。
膵臓がんはこれまで「治療困難ながん」の代表格とされてきました。発見が遅れやすく、進行が速いため、生存期間の中央値が極めて短い疾患です。そんな中で、生存期間をほぼ2倍に延ばす結果は、専門家からも「ゲームチェンジャー」「歴史的な転換点」と称賛されました。
この薬剤の特徴は、RAS遺伝子変異(特にG12変異)を標的とした精密な作用機序にあります。RASは多くの固形がんのドライバー変異として知られていますが、長年「undruggable(薬にしにくい)」とされてきました。今回の成果は、その難関を突破した一例として、今後の創薬開発にも大きな影響を与えることが期待されています。
ただし、まだ承認前の段階であるため、日本での実臨床導入には時間がかかる可能性があります。また、すべての患者に同じ効果が得られるわけではなく、遺伝子検査による変異の確認が重要になります。今後の動向に注目したい発表です。
[主論文]
発表:ASCO 2026 Plenary Session(RASolute 302試験)
詳細はNEJMなどに同時掲載予定
── 世界の研究室から ──────────────────────────────
ここからは、世界の研究室から届いた近年の論文のなかより、睡眠と代謝に関わる注目すべき二本を、短くご紹介します。いずれも「天=時間」という主題に連なる報告です。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
[短報1·睡眠]「何時間眠るか」より「毎日同じ時刻に眠るか」
睡眠の健康指針は長らく「七時間以上眠りましょう」という、量の話に偏ってきました。けれども近年、睡眠の総量よりも、眠る時刻と起きる時刻がどれだけ毎日一定しているか。その規則性のほうが、健康をよく予測するのではないかという研究が相次いでいます。
2024年初頭、学術誌Sleepに掲載されたモナシュ大学らの大規模研究は、その流れを決定づけました。研究チームは、英国バイオバンクに参加する約六万人の加速度センサーのデータ、のべ一千万時間分を解析し、一人ひとりの「睡眠規則性指標(SRI)」を算出しました。これは、二十四時間のうち同じ時刻に眠っている/起きている確率がどれだけ揃っているかを、ゼロから百で表す指標です。
結果は明快でした。睡眠が最も規則的なグループは、最も不規則なグループに比べて、あらゆる原因による死亡リスクがおよそ三割低く、心臓や代謝の病気による死亡リスクは四割近く低かったのです。さらに重要なのは、統計モデルのうえで規則性と睡眠時間を直接競わせたとき、死亡リスクをよりよく説明したのは睡眠時間ではなく規則性のほうだった、という点です。何時間眠るかと同じくらい、あるいはそれ以上に、いつ眠るかが効いていた。
これは、今週の冒頭でもお伝えした「天」の層、つまり体内時計の安定こそが最上流のレバーである、という考えと見事に重なります。週末の夜更かしと朝寝坊で就寝·起床時刻が二、三時間ずれるだけでも、SRIは大きく下がります。睡眠を増やす前に、まず毎日の就寝·起床の時刻を揃える。今夜から無料で始められる、最も効果の高い介入のひとつです。
[出典]Windred DP, et al. Sleep regularity is a stronger predictor of mortality risk than sleep duration. Sleep. 2024;47(1):zsad253.
▼ https://doi.org/10.1093/sleep/zsad253
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
[短報2·代謝]食べる「時間帯」を狭めるだけで、血糖は動く
もうひとつ、時間と代謝の関係を示す質の高い研究を紹介します。何を食べるかではなく、いつ食べるか。一日のうちで食事をとる時間帯を狭める「時間制限食(タイム·リストリクテッド·イーティング、TRE)」の効果を、厳密なランダム化比較試験で検証したものです。
2024年10月、内科分野で最も権威ある学術誌のひとつAnnals of Internal Medicineに、ソーク研究所のSatchidananda Pandaらのチームによる試験が掲載されました。対象は、血糖値がやや高めでメタボリック症候群を抱える成人。多くがすでに薬を服用している人たちです。参加者を、通常の栄養指導だけを受ける群と、それに加えて食事の時間帯を八~十時間の幅に収める群とに分け、三か月間追跡しました。カロリー制限の指示はありません。ただ、食べる時刻の窓を、それまでより四時間以上狭めただけです。
結果、時間帯を狭めた群では、長期的な血糖の指標であるHbA1cが、通常指導群に比べてわずかに、しかし統計的に意味のある幅で改善しました。劇的な数字ではありません。けれども、薬も食事内容も変えず、ただ食べる時間を整えるだけで、すでに治療を受けている人の血糖管理がさらに一段良くなった、という事実には大きな意味があります。重い副作用も報告されていません。
ここでも効いているのは「天」、つまり体内時計です。私たちの代謝は、インスリンの効きも消化酵素の働きも、日中に高く、夜に低くなるリズムを持っています。夜遅い食事は、いわば店じまいを始めた工場に荷物を運び込むようなもの。食べる時間帯を一日の活動期に寄せることが、同じ食事でも代謝への負担を減らすのです。
[出典]Manoogian ENC, et al. Time-Restricted Eating in Adults With Metabolic Syndrome: A Randomized Controlled Trial. Ann Intern Med. 2024;177(11):1462-1470.
▼ https://doi.org/10.7326/M24-0859
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
■ 3. 数値を読む
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
ウェアラブルや健康アプリは、いまや誰の手元にも膨大な数値を映し出します。しかし、その数字が本当は何を意味するのか、いくつなら気にすべきなのかを、私たちはほとんど教わってきませんでした。
このコーナーでは毎週ひとつの指標だけを取り上げ、僕自身が複数のデバイスで取り続けてきたN=1のデータとともに、その読み方を解きほぐしていきます。数字に振り回されるのではなく、数字と対話するために。
……………………………………………………………………………………………………………………
第1回は、HRV(心拍変動)です。
Apple Watch、Oura Ring、WHOOP、Ringconn、Ultrahuman Ring──いまどれを使っていても、必ず目にする数字のひとつがHRVです。Heart Rate Variability、日本語では心拍変動と訳されるため、多くの人が「心拍数」と混同しますが、これはまったく別の指標です。
心臓は一定のリズムで時を刻んでいるように思えますが、健康な心臓ほど、実は一拍ごとの間隔が微妙にゆらいでいます。たとえば心拍の間隔が0.90秒、次が0.85秒、その次が0.92秒というように、わずかに伸び縮みしている。このゆらぎの大きさを示すのがHRVです。数値が大きいほど、ゆらぎが豊かであることを意味します。
なぜゆらぎが大きいほうが良いのか。それは、HRVが自律神経のバランスを映す窓だからです。アクセルにあたる交感神経と、ブレーキにあたる副交感神経。このうち副交感神経がしっかり働いているとき、心拍の間隔は呼吸に合わせて大きくゆらぎます。つまりHRVが高い夜は、身体が深く回復モードに入っているサインなのです。逆にストレス、寝不足、飲酒、感染症の初期、過度な運動の翌日などには、HRVははっきりと下がります。
ここで多くの人がつまずくのが、「自分のHRVは高いのか低いのか」という問いです。結論から言えば、他人と比べることにあまり意味はありません。HRVは年齢とともに下がり、また個人差が非常に大きい。目安にはなりますが、決して確定的に囚われてはいけません。
そこで、2週間ほど、何もせずただ測り続けて、自分のベースラインを調べます。そのうえで、ある朝の数値が普段よりはっきり低ければ、それは身体が「今日は無理をしないでほしい」と告げているサインだと受け取れ、逆に高く出た日は、しっかり負荷をかけてよい日となります。
そしてHRVこそ、冒頭でお伝えした「天」の層──体内時計と自律神経──の状態を、最も鋭敏に映し出す数値です。就寝時刻を一定に保ち、夜の光を落とし、寝る前のアルコールを控える。たったそれだけで、数週間後にはあなたのHRVの夜間平均が静かに上がってくるはずです。HRVは、生活が変わったことを、あなた自身より先に知らせてくれる指標なのです。
また、HRVはデバイスによって表示される単位が違うという、初心者泣かせの事情があります。多くのリングや時計が採用しているのはRMSSDという計算法で、これは隣り合う心拍の間隔の差をならした値です。一方、医療や研究の現場ではSDNNやLF/HFといった別の指標も使われます。同じ夜のデータでも、RMSSDで40ミリ秒、別の指標ではまったく違う数字が出ることは珍しくありません。だからこそ、デバイスをまたいで数値を比べても意味がない。ひとつの機種で測り続け、その機種のなかでの自分の変化だけを見る。これが鉄則です。
測定のタイミングも重要です。HRVは一日のなかで大きく揺れ、日中の活動やストレス、食事のたびに上下します。最も安定して比較できるのは、睡眠中、とりわけ入眠後の数時間の平均値です。OuraやWHOOPが「夜間平均HRV」を主役に据えているのは、このためです。
では、朝起きてHRVが下がっていたら何をすべきか。答えはシンプルで、その日は回復を優先することです。激しい運動は軽い散歩に切り替える、アルコールを控える、いつもより早く床につく。そして仕事をしすぎない。逆に数日連続で高値が続いているなら、身体はよく回復しているサインですから、思いきって負荷の高いトレーニングを入れてよい。気合いや根性、体の声を無視したスケジュールではなく、HRVに従って強度を決める。これがオーバートレーニングや不調の芽を、早い段階で摘むことにつながります。
最後に、HRVを上げるために最も効くものを挙げておきます。第一に、規則正しい睡眠。第二に、就寝前三時間以内のアルコールを避けること。第三に、ゆっくりとした呼吸です。一分間に五~六回ほどのペースで深く長く息を吐く「スロー·ブリージング」を寝る前に数分行うだけで、副交感神経が優位になり、その夜のHRVの改善を報告する研究もあります。僕自身、移動で時差のなかにいるときほど、この呼吸を意識しています。HRVは、あなたの努力に正直に応えてくれますので、現在の「本当の自分」を知る手がかりにしてください。
来週は、もうひとつの基本指標──安静時心拍数(RHR)を取り上げます。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
■ 4. 試した一品
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
世界には、健康によいとされる食材、サプリメント、デバイス、施術が無数にあふれています。けれど、その大半は誰かの体験談か、企業の宣伝にすぎません。
このコーナーでは、僕自身が実際に一定期間試し、ウェアラブルや検査の数値で定点観測したものだけを、ひとつずつ紹介していきます。効いたものも、効かなかったものも、N=1の正直な記録として。特定の製品を推奨するものではなく、あくまで僕の身体で起きたことの報告です。
……………………………………………………………………………………
第1回に選んだのは、グアーガム分解物(PHGG)という、地味な食物繊維です。
水溶性の食物繊維の一種で、無味無臭の白い粉。水にもコーヒーにもさっと溶け、味をまったく変えません。もとはマメ科の植物グアーの種子からつくられる、ごくありふれた素材です。話題性という点では、最も地味な部類だと思います。
僕がこれを試そうと思ったのは、腸内細菌の状態を整えたかったからです。「地」の層、つまり体内に棲む微生物との共生を改善するには、彼らの餌となる発酵性の食物繊維、いわゆるプレバイオティクスが欠かせません。数あるなかでPHGGを選んだのは、ガスや膨満感を起こしにくく、おなかの弱い人でも続けやすいという報告が多かったから。実際、イヌリンなど他の繊維で張りを感じやすい僕の腸でも、ほとんど不快感がありませんでした。
やり方はごく単純で、水に小さじ一杯(約5グラム)を溶かして飲むだけです。そのまま水と同時に飲んでいただいても構いません。これを8週間続けました。
変化は、まず排便のリズムに表れました。それまで日によってバラついていたものが、二週間ほどで安定し、いわゆる「快調」と呼べる状態に近づいていきました。さらに僕の場合、夜間の血糖の動きにも小さな変化がありました。フリースタイルリブレやDexcomで連続測定している血糖値の、就寝後の落ち込みがいくぶん穏やかになり、夜中に決まった時刻に目が覚める頻度が減ったのです。食物繊維が翌朝以降の血糖反応をなだらかにする「セカンドミール効果」が、巡り巡って睡眠にも届いたのかもしれません。
もちろん、これらはすべて僕一人の身体で起きたことであり、誰にでも同じことが起こると約束するものではありません。腸内細菌の構成は一人ひとり大きく異なり、ある人に効く繊維が、別の人には合わないこともあります。だから、各人が試してみるしかない。それでも、刺激が少なく、安価で、料理の味も邪魔しないこの地味な粉は、「地」の層に最初に手をつけるための一品として、僕のなかですっかり定番になりました。
いったい、PHGGがなぜ「優しい」のか。食物繊維にはおおまかに、水に溶ける水溶性と、溶けない不溶性があります。さらに水溶性のなかにも、腸内でゆっくり発酵するものと、急速に発酵してガスを多く生むものがあります。イヌリンやフラクトオリゴ糖は後者に近く、効果は高いぶん、人によっては張りや不快感を伴います。PHGGは前者、つまり大腸を穏やかに、ゆっくり発酵していくタイプです。だから腹部症状が出にくく、過敏性腸症候群の症状緩和を期待して臨床でも使われてきました(出典:https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/16413751?click_by=p_ref)。腸が敏感な人ほど、最初の一歩に向いている繊維だと言えます。
発酵の主役は、腸の奥に棲む細菌たちです。彼らはPHGGを餌にして、酪酸をはじめとする短鎖脂肪酸という物質を作り出します。この酪酸が、大腸の粘膜細胞の主要なエネルギー源になり、腸のバリア機能を保ち、炎症を鎮め、さらには満腹感や血糖の調節にまで関わることが分かってきました。つまりプレバイオティクスとは、自分が消化するための栄養ではなく、自分のなかに棲む細菌を養い、その細菌が作る恵みを間接的に受け取るための投資なのです。「地」の層を整えるとは、まさにこの間接的な関係をていねいに育てることに他なりません。
実践上の注意も、いくつか共有しておきます。第一に、少量から始めること。いきなり一日二十グラムなどと増やすと、いくら穏やかなPHGGでも、慣れないうちはお腹が張ることがあります。僕は小さじ一杯、五グラム前後から始め、二週間ほどかけて様子を見ました。第二に、熱い飲み物にも冷たい水にも溶けますが、ダマにならないよう少量の液体でよく混ぜてから足すときれいに溶けます。第三に、効果を感じるには最低でも二~四週間は続けること。腸内細菌の構成が変わるには時間がかかります。一日二日で判断せず、ひと月単位で観察してください。
そして、これは食物繊維全般に言えることですが、サプリメントの粉に頼りきりにならないことも大切です。PHGGはあくまで土台を整えるための一品であり、本来は、多様な野菜·豆·全粒穀物·海藻·発酵食品から、さまざまな種類の繊維を摂ることがいちばんの理想です。腸内細菌は多様性を好みます。一種類の繊維だけを大量に摂るより、十種類の植物から少しずつ摂るほうが、彼らの世界は豊かになります。地味な粉一さじを入り口にしながら、最終的には食卓そのものを少しずつ変えていく。それが、本来の「地」の層への正しい向き合い方です。
派手なサプリメントを10種類そろえる前に、まず土台作りのために、一杯の水に溶かす一さじから。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
■ 5. 「病との対話」
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
現代社会において、「病」や「未病」は医者ではなく、自らと対話する必要があります。
しかし、向き合う方法は、そう簡単に理解できるものではありません。
先端医師や代替医療者の他では聞けない話を通じ、いかにして「病」や「自己の問題」と向き合えばいいのかを探ります。
…………………………………………………………………………………………………
神楽坂乳業株式会社 代表取締役 林 和彦 先生
第1回「父の死から始まった原点」
35年間、大学病院でがんと向き合ってきた専門医が、還暦を迎えてヨーグルト屋になった。一体何が、その決断を後押ししたのか。きっかけは、ある夜に届いた一本の電話だったという。中学3年生だった林和彦先生に、人生で最初の、そして最も大きな問いを残した出来事。そこから医師という道を選び、外科の最前線で戦い続けた35年。なぜ「がんを治す」ことを突き詰めた医師が、最後にヨーグルトという答えに辿り着いたのか。その原点を辿る。
【神楽坂乳業株式会社 林 和彦 先生 1/4】
▼父の白衣をつかんで離れなかった子ども
Future Health Lab研究員:先生のご経歴を伺う前に、まず生い立ちから教えていただけますか。ご両親は医療関係者でしょうか?
林:東京の中野の生まれです。父親は歯科医で、自宅で開業していました。その父親のことが異常に好きで、もう溺愛していたのは事実で、父の診察室で白衣をつかんで動かない子だったんですね。「パパと離れたくないから幼稚園行かない」って言い張るくらい。
Future Health Lab研究員:可愛らしいですね。
林:その父親が私が中学3年の時に胃がんで亡くなったのが、今のすべての始まりみたいなところです。
Future Health Lab研究員:お父様のご病気は、当時どのような経緯で分かったんですか。
林:(腹部を)開けた段階でもうがんが全部に散っていて、何もできなくてまた閉めた、という手術でした。要するに手遅れの状態で見つかったんです。
本人には告知もされていなくて、「胃潰瘍だから手術する」という話になっていた。だから父は、術後も「なんで治らないんだろう?」と思い続けていた。私が知らされたのは亡くなる1週間前です。
Future Health Lab研究員:昔はがんだとわかっても患者に告知しませんでしたから。先生も1週間前に、初めて真実を知らされたんですね。
林:夜中に母親に起こされて、「ごめんなさい、お父さん本当は胃がんなの。時間がないの」って言われて。母親も黙っているのに耐えかねたんだと思います。 僕は壁をどんどん叩きながら、「なんで言わないんだ」と母親に怒りました。
もしずっと前に知っていたら、学校なんか行かないで父親のそばにいた。聞きたいことも、教えてほしいことも、一緒に食べたいものも、行きたいところもあった。「何一つできないじゃないか」って、泣きじゃくったのを覚えています。
Future Health Lab研究員:そのつらい経験が、医師への道に直結していったのでしょうか。
林:出発点は無力感なんです。だからがんを治せる医者になりたいと思った。
実は幼稚園の時の将来の夢には、すでに医者と書いていたんですよ。
なんでかはよくわからないんですが。それが、父の死で完全に固まりました。
▼小学6年生で、自分で願書を出しに行った
Future Health Lab研究員:医師になるために、相当早くから動かれたんですか?
林:医学部に入るためには中学受験もした方がいいと思って、父親はあまり賛成じゃなかったんですが、塾に行かせてくれと頼んで。開成中学の願書も、小学6年生なのに自分でお金をもらって出しに行きました。家では勉強しろと言われた記憶もなくて、全部自分が医者になりたかったからそっちへ向かっていた、という感じです。
Future Health Lab研究員:お父様を亡くされた後は、どのように過ごされていたんですか?
林:PTSDみたいになっちゃって。一年間、220日くらいは父親のお墓に行ったんですよ。学校は1時間目だけ出ていなくなるとか、もう行かないとか。
当時はそれほど出席に厳しくなかったから、「あいつは可哀想だからほっとけよ」って感じでした。でも一年くらいかけて少し立ち直って、その時には自分の一生のテーマはがんだと決めたんです。
お金もなくなっていたから、実家から通える国立しか道がない。 猛勉強して千葉大に入りました。
▼「治らないとわかっていながら手術する」自分への違和感
Future Health Lab研究員:大学卒業後は、消化器外科に入られたんですね。
林:がんを治す医者になるために消化器外科に入局しました。外科のがんといえばメジャーな時代でしたから。
ただ、私は欲張りで、がんに関わることは全部やりたかった。
手術がある程度できるようになったら内視鏡に移って、早期発見の研究もやって、それが一通り済んだら今度は遺伝子の研究が始まりかけてた時期だったので、アメリカに渡ろうと思ったんです。
Future Health Lab研究員:手術自体は順調に進んでいたんですか。
林:手先が器用だったので、手術はできていました。同年代の中ではバリバリやっていた方だったと思います。
ただ、自分の中にずっと違和感があったんです。同僚たちは朝から晩まで、あそこのリンパ節をどう郭清するか、あそこの吻合をどうするかという話を、心から楽しそうに語り合っていました。でも自分だけは、それに興味を持てなかった。
Future Health Lab研究員:それは、どういう違和感だったんでしょうか。
林:手術をしながら、これはどうせ治らないよな、と思っている自分がいたんです。腕は動かせるけれど、心はそこにない。その不誠実さに、自分自身が耐えられなくなっていきました。だから医局を辞めさせてくださいと言って、メスを置いたんです。
Future Health Lab研究員:周りの反応はどうでしたか。
林:すごく揺れましたよ。何でメスを置くんだと、先輩たちに散々言われました。下手だったわけじゃないんです。むしろ手術の腕は良かった。
でも、がんを治したいという思いで医者になったのに、神の手と言われるような教授が手術しても、再発したり亡くなる方がたくさんいる現実を見て、自分がそのまま外科医として30年修行して教授と同じレベルになったとしても、結局治せないんじゃないか、と思ってしまったんです。
▼「神の手」の教授に直言して、机のものをぶっ飛ばされた
Future Health Lab研究員:指導教授にはどう伝えたんですか?
林:「神の手」と言われるような教授に、「留学させてください」とお願いして。「なんで行くんだ?」と聞かれたので、正直に言ってしまったんですよね。
「先生でも助けられない患者さんがいますよね。30年経って先生と同じレベルになっても結局助けられない自分がいるんだとしたら、その30年はなんだったのかわからない。やっぱり30年あるんだったら、治せるようになっていたいじゃないですか」と。
Future Health Lab研究員:それは……直球ですね。
林:目の前のものを全部ぶっ飛ばされて、「二度と戻ってくるな」と言われました(笑)。まあ喧嘩というか、こちらが一方的にやられた感じですね。
Future Health Lab研究員:留学先ではどんなことを研究されていたんですか?
林:アメリカの大学で、抗がん剤の感受性を遺伝子で予測する研究をやっていました。90年代初頭で、誰もそんなことをやっていなかった時代です。ちょうど定量的PCRという新しい手法を開発した研究室で、そこに乗っかれたのが良かった。向こうで賞をもらって、そのまま准教授で残らないかという話もあったんです。
▼「お前は不誠実な外科医だった」──帰国を決めた夜
Future Health Lab研究員:それでも帰国を選ばれたんですね。
林:実は、最初は帰らないつもりだったんです。准教授として残れる、給料も出すと言われていたので、新しい教授に「自分はがんを治したいと思って外科医になったのに、結局治せないとわかりながら手術を続けていた。それが不誠実だった」という手紙を書いて、医局を辞めさせてくださいと伝えました。
Future Health Lab研究員:医局には、もう戻らないつもりだったんですね。
林:そうです。でも、向こうから「そんなこと言わずに戻ってこい」と返事が来たんです。ちょうどその頃、外科医が必ずしもメスを握らなくてもいい時代になりつつあった。国の中にがんセンター構想のようなものが生まれかけていて、内視鏡で診断して、外科医が手術して、抗がん剤の専門家が来て、緩和ケアの人が来る、という形で一人の患者を診ていく仕組みが、ようやく作られようとしていたんです。
Future Health Lab研究員:時代の方が、先生に追いついてきたということですね。
林:そういう時代になってから戻ってこいと言われて、すごく悩んだんですが、子どもを見ていて、このままアメリカ人になっていくのかなと思った時に、一回帰ろうかなと決意しました。決めたらもう次のことを考える性格なので、後ろ髪を引かれる感じはなかったですね。ちなみにその研究室、私が帰国して5年目くらいにナスダックに上場してまして、当時のスタッフはみんな今マリブの豪邸に住んでいます。
Future Health Lab研究員:残っていたら人生が変わっていたかもしれませんね。
林:どうも、そういうご縁はないようですね(笑)。
▼LANケーブルを自分で張った2年間
Future Health Lab研究員:帰国後は、どのような状況でしたか。
林:戻ってみたら、抗がん剤の専門医が、外科と協力してやっていく仕組みが何もありませんでした。自分で手術もしていないから患者さんもいない。やることがないんですよね。
しょうがないから、大学のホームページをHTMLで自分で書いたりLANケーブルを張り替えたりしました。それから教授に100万円を渡されて、これで予約システムを作ってくれと言われて。100万円でハードもソフトも全部というのは普通に考えて無理です。なんとか中古のPCと中古のバーコードリーダーを買ってきて、天井にLANケーブルを自分で張って、予約システムを作りました。
Future Health Lab研究員:先生の本来のお仕事ではないですよね?
林:正直、何かやっていないとおかしくなりそうだったんです。
Future Health Lab研究員:せっかくアメリカから帰ってきたのに。不遇の時代がどのくらい続いたんですか?
林:2年くらいですね。
▼誰も診たくない患者を、一人で引き受けた
Future Health Lab研究員:その2年間、医師としての仕事は全くなかったんですか。
林:完全にゼロというわけではなくて、誰も診る人がいなくなった患者さんを、私のところに回してもらうようなことはありました。乳がんや膀胱がん、それから特に原発不明がんという、どこから発生したかがわからないがんの患者さんです。
Future Health Lab研究員:それは、敬遠されやすい患者さんということでしょうか。
林:そうです。本来は、原発がどこにあるかわかる科の医師が診るべきものなんですが、それがわからないとなると、誰も診たくない。誰かに回せ、という話になる。それで、私のところに次々と回ってきたんです。最初は、本当に都合のいい押し付け先みたいな扱いでした。
Future Health Lab研究員:それでも、診療を続けられたんですね。
林:続けていくと、わかってくれる人が出てくるんです。あるとき、前にその患者さんを診ていた先生が転勤になって、本人が「他の先生は嫌だ」と言って、私が引き受けることになった。一度信頼関係ができると、肺や乳腺など、いろんな患者さんを送ってもらえるようになっていきました。気づいたら、それが自分の専門領域になっていたんです。
Future Health Lab研究員:その2年間があったからこそ、見えてきたものもあったんですね。
林:そうですね。何もできない時間も、後から考えると意味がなかったわけじゃない。だからこそ、次の道を探すことになったんだと思います。
(つづく)
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
■ 6. QAコーナー
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
!! 高城未病研究所への質問募集 !!
高城未病研究所へのご意見、ご要望、質問などを募集します。
頂いた質問は、毎週メルマガ本文中で回答します。
高城未病研究所に答えて欲しいことがある方は、
qa-healthlab@takashiro.com
まで、どしどしご連絡ください。
なお、「年齢」「性別」「お住まい」「診断された日時」「既往歴」等を可能な範囲で書いていただけるとより正確なお答えが可能です。
(400文字以内 / お一人様毎月一問まで)
※本コーナーに寄せられたご質問には、神宮前統合医療クリニックの医師がそれぞれの専門知識をもとに回答しています。
※全ての質問に必ずしも答えられるわけではありませんので事前にご了承ください。
※ご質問を頂いた週のメルマガではなく、翌週以降のメルマガでお答えする場合も多くございます。
……………………………………………………………………………………
▽Q.1▼▽
今週の火曜日に左腎細胞がん(ステージ1、腫瘍径6.6cm)と診断されました。7月24日に腎臓全摘手術を予定しています。手術すれば片方の腎臓で生活することになります。
できることなら切らずに済む可能性を探りたいと思い、質問いたします。対症療法でなく、今までの生活習慣を根本から改めたいという気持ちで断食の合宿に参加したいと考えているのですが有効だとお考えでしょうか?
断食中に入るオートファジーで、6センチの腫瘍が消せるものなのでしょうか?腎細胞癌には腫瘍マーカーが無いので経過観察がCTしかなく、被曝もあるので3ヶ月に一回しか見れないというリスクもあります。切れば完治する可能性が高いのにオートファジーで消すために様々なリスクを取る価値はあるのでしょうか? ちなみに船戸クリニックの船戸先生も腎癌で手術で摘出されてましたよね。50歳男、ロードバイクとトレイルランニングで体力、スタミナには自信があります。
【 A 】
このご質問には、放射線科診断専門医の上條崇裕先生にお答えいただきます。
「はじめに率直に申し上げますが、オートファジーで6.6cmの腎細胞癌を消すことはできません。オートファジーは細胞内の不要なタンパク質や小器官を分解·再利用する仕組みであって、断食やオートファジーによって6.6cmの腎細胞癌が消えると期待できる臨床的根拠はありません。僕であれば船戸先生と同じく迷わず手術を選びます。
そして、手術前後のこの時期の断食はむしろ『リスク』です。手術は身体に大きな侵襲が加わり、出血や感染などの合併症も起こりえます。術創部の治癒には十分な栄養が必要で、栄養状態が悪ければ回復は遅れます。ご自身でもすでに結論は出ているかと思いますが、『オートファジーで消すために様々なリスクを取る価値』はありません。
生活習慣改善は大事なことではありますが、今、最も大切なのは完治を狙えるタイミングを逃さないことです。左腎全摘で片腎となることに不安を感じるお気持ちは理解できます。片腎となった場合は、残った側の腎臓が代償性に働き、腎機能を維持しようとします。
その場合に懸念されることや今後留意すべきことなどは主治医とよく話し合ってみてください。2026年に腎癌診療ガイドラインが改訂され、cT1の腎癌に対する部分切除術の位置づけについても改めて扱われています。(ガイドラインCQ2参照)
腫瘍径が大きく、また血管などとの位置関係によって難しいかもしれませんが、部分切除術の適応可否について主治医の先生のお考えを伺ってみてもよいと思います。ご自身の納得のために必要と感じるなら、他院でセカンドオピニオン外来を受診するのもよい選択です。
従業員50名以上の事業場にお勤めであれば、勤務先の産業医に相談する手もあります。僕自身も産業医として癌にまつわるご相談に数多くお応えしてきました。
CT被曝について不安があるのも当然です。腎細胞癌の術前および術後の経過観察ではダイナミック造影CTが選択される場合が多く、被曝線量がある程度多くなるのは事実です。しかし術前の評価、術後の再発転移検索に必要なものであり、仮に腎癌に特異的な腫瘍マーカーがあったとしても、画像検査での定期的な評価は基本的に必要となります。被曝線量と撮影範囲、撮影頻度、必要に応じた超音波やMRIの併用についても、主治医および放射線科において、必要性とリスクのバランスを見ながら判断されます。
当院のゲノム検査については結果が出るまでに3~4ヶ月かかります。T1bで手術可能な今回の治療方針を決めるのに使うのは得策とは言えません。無事に手術を終えて回復したタイミングで、これからの人生をより良く生きていくための指針として活用されるのがよいと思います。
突然の告知で不安と混乱が起こるのは人間としてごく自然なことです。先週火曜の診断から7月24日の手術へという段取りを見るかぎり、主治医の先生はかなり迅速に対応してくださっているようにお見受けします。疑問や不安は先生との対話のなかでひとつずつ解消していってください。ご家族やご友人、職場の方々と話すことも、きっと支えになります。ロードバイクとトレイルランで培った体力とスタミナは術後の回復において大きな味方になるはずです。どうかご自愛ください。応援しています!」
▽Q.2▼▽
こんにちは。妻41歳が下血をするらしく毎回ではないみたいですが、かなり出血する日もあれば少量の出血をする場合もあるそうです。そのことで病院へ検査を勧めますが事が進んでしまったらその時対応すると言われ何度か話すとそのことは言わないでほしいといわれます。多分下血は一年半くらい前からある模様です。かなり心配なので病院に行って検査を受けて欲しいのですが聞いてくれないしキレてきます。どうしたら病院へ検査に行ってくれますか。今は麻酔で寝てる間に終わるとも伝えましたが無理でした。わたしの言い方が悪いのでしょうか。
【 A 】
このご質問は、内科を中心に、プライマリ·ケアや産業医など幅広い現場で診療に携わる伊藤京子先生にお答えいただきます。
「ご心配なお気持ちは自然なことだと思います。1年半近くも出血が続いているとなれば、夫として心配でたまらなくなるのは当然ですし、早く病院で相談してほしいと思うのも無理のないことです。しかし、正論を伝えれば伝えるほど奥様が怒ったり心を閉ざしたりしてしまうのは、必ずしもあなたの言い方が悪いからではありません。
まず医学的には、1年以上続く原因不明の出血は、一度医療機関で確認を受けた方がよい症状です。
ただ、ご相談文の『下血』が、便に血が混じる(消化管からの出血)のか、性器からの出血(不正出血)なのかで、受診先や考え方が変わります。便に血が混じる、排便時の出血であれば、痔など良性のこともありますが、ポリープや腸の炎症などを確認するため、消化器内科への相談をおすすめします。
月経以外の性器出血であれば、ホルモンバランスの変化、子宮筋腫、ポリープなど良性の原因も多い一方、年齢的にも婦人科での確認が望ましい状況です。結果として『異常なし』で安心できることも少なくありません。
また、奥様が受診に強く抵抗される背景には、不安や恐怖、受診への抵抗感があることも少なくありません。検査そのものへの不安だけでなく、結果を知ることへの不安が背景にある場合もあります。
そのため、『放っておくと大変なことになる』『お願いだから検査を受けて』と説得を重ねるより、『心配しているよ』『何もなければ安心できるし、一度相談だけでもどう?』『必要なら一緒に行くよ』など、相手の気持ちを尊重しつつ、検査を受けさせるのではなく相談のハードルを下げる伝え方の方が、結果的に受診につながることがあります。
また、いきなり精密検査を勧めるより、内科やかかりつけ医への相談、貧血の確認など、小さな一歩から始める方が受け入れられやすい場合もあります。夫婦間だけでは感情的になりやすい場合には、信頼しているご友人や医療職など、第三者の力を借りることが有効なこともあります。
言い方が悪いというより、心配の伝わり方がすれ違っている可能性がある、と捉えるとよいかもしれません。
なお、出血量が増える、便が黒っぽい(タール便)、強い腹痛、急激な体重減少、息切れ·動悸·強い倦怠感(貧血の可能性)などがある場合は、貧血や何らかの病気が進行している可能性がありますので、早めの受診をおすすめします。
あなたが一人で抱え込み、自分を責める必要はありません。正論を一度置いて、奥様の不安の隣にそっと寄り添うように、心配しているというあなたの気持ちを伝えてみてください。
まずは、奥様が『相談だけなら』と思える入り口を、一緒に探してみてください」
▽Q.3▼▽
友人が帯状疱疹後神経痛(後遺症)で1年近く苦しんでおります。焼けるような体内の痛み、鬱状態、睡眠障害、自殺願望など。日々ネットで探し、ペインクリニック、鍼治療など様々な方法を試みているようですがまったく改善が見られないようです。次は(残された治療として)カテーテル治療というものを試すとのことでした。自分は、病は気からという気持ちが強く、つい、精神論的なことを言ってしまいがちでありますが、ここまで長い期間わめき苦しむ友人の姿をみてきて何か自分に出来ることはないかと思い、この度ご相談させて頂いた次第です。ご教授のほど何卒よろしくお願い致します。
【 A 】
このご質問は神宮前統合医療クリニック院長の三輪桜子医師にお答えいただきます。
「私は、7年間にわたり、ペイン外来をやっていた経緯もあり、帯状疱疹後神経痛の患者様も数多くみてきました。まず、神経痛は筆舌に尽くし難いほど辛く痛いものです。精神論を振りかざされては、逆に辛いものがあると想像されます。
痛みの箇所は、脇腹なのでしょうか??
痛みの箇所にもよりますが、硬膜外麻酔による神経ブロックはお試しでしょうか??
ペインクリニックにも行かれているということなので、そこでお尋ねいただけたらと思います。
硬膜外ブロックも一時的な痛み止めとしての効果とはなりますが、一時的だけでも痛みがない状態にすることがとても重要なのです。
痛みのループを一旦切ってやることが重要です。痛い→体が縮こまる→その痛みの箇所の血流が悪くなる→血流が悪いことにより、老廃物や痛み物質がウォッシュアウトされない→また痛くなる→最初に戻る。
そして、痛みを感じてそれがずっと続くと、もう治らないと絶望して鬱·睡眠障害·自殺願望など引き起こしてしまうのです。
なので、まずはそれをしっかり理解してくれてそばについてくれる方が必要です」
▽Q.4▼▽
医療従事者ではない妻の、今後の活動について質問です。妻は予防医学の民間資格や血液栄養解析の勉強を8年間続け、この度、ホリスティックデンティストとの出会いを機に、歯科クリニックの一角で『血液栄養解析~食生活サポート』を始めることになりました。
形態としてはクリニックからの業務委託で、診断・判断は歯科医が行い、妻は解析、クライアント面談、食生活のアドバイスを担当します。
昨今、パーソナルトレーナー等の監視規制強化やトラブルによる損害保険加入の増加といった背景を踏まえ、以下2点についてご見解を伺いたいです。
①万が一のトラブル(アドバイス起因の体調不良の訴えなど)を想定し、クリニックの保険とは別に、妻個人としても損害賠償保険に加入しておくべきでしょうか?
②民間資格でのヘルスケアアドバイスの規制リスクが高まる時代において、夫としてこのまま彼女の背中を全力で押してあげるべきか、それとも慎重になるべきでしょうか? ご意見をいただけますと幸いです。
【 A 】
このご質問には、医療分野のコンプライアンスやビジネスに詳しい冨安泰生先生にお答えいただきます。
「結論から申し上げると、応援してよいご活動です。ただし、リスク設計は必須です。そして、見落とすと法的に深刻な点があるので、最初にそれをお伝えします。
採血は、奥様ご自身が行ってはいけません。採血は『医行為』にあたります。無資格者(民間資格を含む)が採血をすると医師法違反になります。
法的に採血ができるのは、①医師・歯科医師、②医師の具体的な指示のもとでの看護師·臨床検査技師だけです。
ですので、採血は必ずクリニック側(医師・歯科医師、または医師の指示下の有資格者)が行い、奥様は採血そのものには関与しない、という線引きが大前提になります。
加えて、もう一点。血液の数値を『解釈して個人の病状を判断する』部分も医行為にあたります。さらに、全身の血液値に基づく医学的な診断は本来“医師”の領域で、歯科医師の診断権限(歯・口腔の範囲)を超える可能性があります。
『診断·判断は歯科医が行うから大丈夫』という前提自体に、実は論点があることは知っておいてください。
その上で、ご質問への回答です。
個人の損害賠償保険は、入っておく方向で検討すべきです。クリニックの保険が、業務委託の個人(奥様)まで当然にカバーするとは限りません(施設向け保険では個人への賠償請求が対象外になることがあります)。
日本にはカウンセラー・セラピスト向けの賠償責任保険など、こうしたアドバイザー向けの商品が実在し、加入可能です。
ただ大事なのは『入るかどうか』だけでなく、クリニックの保険が業務委託者を含むか/契約書上の責任分界/記録の保管/説明同意書/サプリ販売の有無/医師·歯科医師へのエスカレーション基準まで、セットで詰めておくことです。
② 規制リスクは、現実的に見ておくほうがよいです。
民間資格でのヘルスケア事業は、『医業に該当しない範囲』で行う必要があります。検査結果から疾患の可能性を示したり、診断などの医学的判断をしたりはできません。
説明も、『事実としての結果·一般的な基準値·一般的な情報』を伝えるところまでに留める必要があります。
サービスを開始するに当たり、以下の8点に気をつけるよう奥様にお話し下さい。
1,『採血は奥様が行わない』(医師・歯科医師、または医師の指示下の看護師·臨床検査技師が実施)
2,『診断』『治療』『改善します』『不足しています』と断定しない
3,『この数値だからこの病気』『この食品が原因』と言わない
4,歯科医師の判断/指示の範囲を文書化する
5,腎疾患・糖尿病・摂食障害・妊娠・がん治療中・抗凝固薬内服中などは歯科医師確認へ
6,サプリ販売をするなら利益相反を明示し、過量摂取を避ける
7,面談記録を残す
8,医療広告的な表現(治療効果の断定など。健康増進法·医療広告ガイドラインの対象です)を避ける
夫としての立ち位置は、『君のやりたいことは全力で応援する。長く続けるために、法務·保険·表現·記録を一緒に整えよう』。
これが、奥様を守りながら背中を押す、いちばん良い形だと思います。また、何が疑問点などあればお気軽にご相談下さい。
▽Q.5▼▽
今年、53歳になる男性です。8weeksも最初から参加しており、体調も良く、完全なケトン体になっているかは?ですが、頭(思考)もスッキリしています。
ただ、モノや人物の名前を覚えるのかが昔から苦手で、自分でも記憶力がないと自覚はしています。ただ、特に最近になってモノがわかっていてもその名前が出てこないことが多くなってきています。いわゆる認知症の始まりでしょうか?
神宮前統合医療クリニックで検査を受けて、自分の「現在地」を把握した方が良いでしょうか?
【 A 】
このご質問には、脳機能向上、認知症予防に詳しい村上友太先生にお答えいただきます。
「まず、今回の内容だけで『認知症の始まり』と判断する必要はないと考えます。
『モノや人の名前がすぐに出てこない』『あとから思い出す』という症状は、50代以降では比較的よくみられます。
多くは『想起(思い出すこと)のプロセスの遅れ』や『加齢に伴う変化』によるものです。そのほかにも、睡眠不足、ストレス、疲労、血糖変動、飲酒、運動不足、集中力の低下などでも起こります。また、もともと名前を覚えるのが苦手な方では、加齢とともにその傾向を自覚しやすくなることもあります。
一方で、脳神経外科·予防医療の立場からは、『認知症かどうかを心配する』ことよりも、今の脳の状態を一度確認して、記憶力·集中力·脳血管リスクを守る取り組みを始めることが大切だと考えます。
特に注意したいのは、以下のような症状がある場合です。
・同じことを何度も聞く
・最近の出来事や約束を忘れる
・仕事や家計管理で明らかなミスが増えた
・慣れた場所で迷う
・会話の内容についていけない
・性格や意欲が変わった
・家族や周囲から「以前と違う」と言われる
このような症状がある場合は、早めに認知機能の評価を受けることをおすすめします。
現時点でおすすめしたい検査としては、まずは簡単な認知機能検査、血液検査、睡眠·ストレス状態の確認です。血液検査で慢性炎症やビタミンB群、インスリン抵抗性、ホモシステイン値、甲状腺機能などを確認することが望ましいです。
近年、アルツハイマー病に関連する血液バイオマーカーとして『p-tau217』が研究·臨床の両面で注目されています。これは発症前の段階でのリスク評価を補助する検査の一つで、当院でも導入しています(税込99,000円)。
ただし、この検査単独で診断が確定するものではなく、あくまで認知機能検査やMRIなどと組み合わせて総合的に判断するための補助的な位置づけです。
これまで頭部MRI検査を受けたことがない場合には、脳の形態変化(萎縮など)、過去の小さな脳梗塞の跡、脳血管の異常の有無などを確認しておくこともおすすめします。
また、最近は『認知症かどうか』だけでなく、『脳のパフォーマンスをどう保つか』という視点が重要です。具体的には、以下を意識してみてください。
1つ目は、睡眠です。記憶の定着や脳内の老廃物処理には、深い睡眠が重要です。睡眠時間が短い、夜中に何度も起きる、いびきがある場合は、睡眠時無呼吸の有無も含めて評価する価値があります。
2つ目は、運動です。週2回以上の運動は、軽度認知障害の方でも認知機能に良い影響が期待されるといわれています。筋トレと有酸素運動を組み合わせるのが理想です。
3つ目は、血管リスクの管理です。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満、運動不足は、脳梗塞だけでなく認知機能低下にも関係します。
4つ目は、脳への刺激です。人と話す、新しいことを学ぶ、文章を書く、読書をする、楽器や語学などに取り組むことは、脳のネットワークを保つうえで有用です。ただし、単純な脳トレだけでなく、生活の中で実際に頭を使う活動が大切です。
5つ目は、栄養です。
ケトン体を意識した食事で頭がスッキリしているのは良い反応かもしれませんが、極端な糖質制限やエネルギー不足、タンパク質不足、ビタミン・ミネラル不足があると、かえって集中力や記憶力に影響することがあります。体重、筋肉量、血液データを見ながら調整するのが安全です。
まとめると、今回の症状だけで認知症と考える必要はありません。ただし、53歳という年齢は、脳の健康状態を一度確認し、認知症予防·脳機能向上に取り組み始めるには非常によいタイミングです。不安が続く場合や、仕事・日常生活で困る場面が増えている場合は、クリニックで『脳の現在地』を確認する検査を受けていただくのは十分に意味があると思います」
▽Q.6▼▽
私は50歳女性です。15年前に知り合った夫(バツイチ)を博識で尊敬できる人だと思い、5年前に結婚しました。夫は保険業や資産運用で経済的余裕があると言っていましたが、後になって多くが虚言だと判明。私や母からも借金を重ね、現在は家で一緒に修理仕事をしています。違和感は以前からありましたが従ってしまっていました。
調べるうちに、自己愛·ガスライティング·母子依存という言葉が強く当てはまると感じています。離婚を切り出すとODで入院、『死ぬ』と包丁を持ち出したこともあり、精神救急には『正面から話し合わず、水面下で準備し第三者を入れて離れるべき』と言われました。家は私名義ですが、猫を多頭飼いしており高齢や病気の子も多く、私は猫を手放せません。
なので『猫を看取るまで数年は耐えよう』と決めました。ただ毎日、被害者のように振る舞われたり重い空気を作られ、心が削られています。この状況で私はどんな心の持ち方で日々を過ごせばいいのでしょうか。
皆さんの前向きな質問コーナーなのに、重い相談で本当すみません。こんな私にアドバイス頂けたらなんとか頑張れそうな気がします。よろしくお願いします。
【 A 】
このご質問には、日本精神神経学会専門医、指導医の阿部美緒先生にお答えいただきます。
「診察していないので断定はできませんが、ご主人には精神的な問題やパーソナリティ特性の偏りなど、何らかの背景があるように感じました。
残念ながら世の中には、話し合いを重ねれば分かり合える相手と、そうでない方がいます。
猫ちゃんたちを看取るまでは今の生活を続けようと決めておられるとのことですが、本来であれば第三者の支援を受けながら安全な距離を取ることが望ましい状況なのだろうと思います。
もし今すぐ環境を変えられないのであれば、ご主人の言動に対しては『心を入れずに、事実とルールで淡々と対応する』ことをおすすめします。
怒りや悲しみ、罪悪感を刺激されることを言われた時、心で受け止めると、どんどん疲弊してしまいます。『そうなんですね』『分かりました』と必要最低限のやり取りに留め、人間同士の対話なのではなく、ご主人の病的な部分が暴れているのだと考えましょう。
本来はご主人自身が向き合う課題です。
『ここまでは私ができること、ここから先は専門家の役割』という境界線を持つことも大切です。
もし『死にたい』と言われたり、危険行動があった時は家族だけで抱え込まず、『私は一人では対応できないから、主治医や救急に相談するね』と、あらかじめ決めたルール通りに対応してください。切迫した危険がある場合は警察を呼ぶことも大切です。
どこかに定期受診して、『先生からそう言われているから』『医療者と相談してそう決めているから』と第三者のルールを立てて伝えるほうがやりやすいと思います。
それは見捨てることではありません。
ご主人を適切な支援につなぐ行動です。
そして、『こんなことになってしまった私が悪い』と自分を責めないでください。
このような環境に長くいると、人は少しずつ自尊心や自己肯定感、自分の感覚への信頼を失ってしまいます。一番悲しいのは、あなた自身が本来のあなたでいられなくなってしまうことだと思います。
あなたの感じている違和感は、とても正しいので、是非これからもご自身の感覚を信じてあげてください。
今はこの経験の意味が分からなくても、いつか振り返ったとき、『この経験があったからこそ今がある』と思える日が来るかもしれません。
その日まで、心を守る工夫をしながら、少しずつ状況を変える準備を続けてください。あなたが1番大切な猫ちゃん達にむけている気持ちと同じ強さで、どうかご自身も大切にお守りください」
▽Q.7▼▽
どうしてもイビキをなくしたいと思っています。枕の高さを変えたり、マウスピースを使ったり口テープを使ったりしましたが、ひとつも改善しません。睡眠時間帯のHRVは80から150ほどの値でほぼ毎日推移しています。もともと子供のころから口呼吸だったのですが、トレーニングをして起きている間は100%鼻呼吸できるようになりました。
横向きに寝るとイビキは止まっているようですが、いかんせん寝ている間の無意識の行動のためにコントロールが効かず、気が付けば仰向けになって口を開けて寝ているようです。睡眠の質は悪いですし、横に寝ている妻にはテロリスト扱いされています。何から始めたらいいかヒントをいただけませんでしょうか? 友人の喉の組織一部を摘出し気道のスペースを確保する手術をしてイビキを改善したという事例も聞きましたが怖いこともあって二の足を踏んでいます。
【 A 】
このご質問には、形成外科分野に精通し、「機能と見た目」の両面を考慮している柴田健了先生にお答えいただきます。
「枕、マウスピース、口テープなどいろいろ試してこられたけれど、改善しない。奥様にテロリスト扱いされながら毎晩悩んでいる、というのは本当につらい状況だと思います。
ただ、ご質問を読んでいて一つ感じたことをお伝えさせてください。試している量は多いのに、「自分のイビキの原因は何か」という問いが、まだ答えが出ていないのではないでしょうか。
イビキは原因によって対処がまったく変わります。原因に合っていないアプローチをいくら続けても、残念ながら改善しません。
まず、そこから整理してみましょう。
イビキの原因としてよく知られているのは①肥満や②下顎が小さい·後退していること、ですが、実際にはそれだけではありません。
鼻の通りが悪い(鼻中隔弯曲、アレルギー性鼻炎など)、扁桃や軟口蓋などの軟部組織が大きい、加齢による咽頭筋の弛緩、飲酒や睡眠薬の影響、女性であれば更年期以降のホルモン変化——こうした要因が単独で、あるいは重なって関与しています。
あなたのイビキがどのタイプか、あるいはいくつかの要因が重なっているのか。ここを特定することが、すべての出発点です。
そして、横向きに寝るとイビキが止まる、というのは非常に重要な情報です。これは「仰向けになると重力で舌根が気道側に落ち込む」という、いわゆる体位型·舌根沈下型の特徴と一致します。骨格的に下顎が小さかったり後退していたりする方に多いパターンです。
横向きで止まるとわかっているなら、「横向きをキープする工夫」を試されたことはおありでしょうか。
抱き枕を抱えて寝るとか専用の体位固定ベルトを使う——こうした方法は地味ですが、体位型のイビキには効くことがあります。『無意識にコントロールできないから無理』と諦める前に、物理的に仰向けになれない状況を作ることをぜひ一度試してみてください。
さらに、『マウスピースを試したが効果がなかった』とのことですが、それは歯科医院でオーダーメイドしたものでしたか。市販の既製品マウスピースは、下顎を前方に固定する精度が低く、そもそも治療効果を期待できるものではありません。
歯科で型を取って作るカスタム品(スリープスプリント)とは、まったくの別物です。
もし市販品しか試していないのであれば、『マウスピースは効かなかった』という結論はまだ早いかもしれません。歯科での相談を一度検討してみてください。特に下顎後退タイプには、スリープスプリントが非常に有効なことがあります。
ご友人がお受けになった手術についてですが、それはおそらく軟口蓋形成術(UPPP)と呼ばれる手術で、軟口蓋や口蓋垂(のどちんこ)を切除・整形して気道を広げるものです。
怖いと感じるのは自然なことです。ただ、怖いかどうかよりも大切な問いがあります。
それは「自分のイビキの原因は、この手術の適応と一致しているか」です。この手術が効果を発揮するのは、閉塞の原因が軟口蓋・口蓋垂の肥大にある場合です。
原因が舌根の沈下や下顎の骨格にある場合には、手術をしてもイビキは改善しません。
さらに注意が必要なのは、イビキの音は消えても無呼吸が残る『無音性無呼吸』というリスクです。
睡眠時無呼吸症候群(OSA)を抱えている場合、手術でイビキという警報音が消えてしまうことで、無呼吸の発見が遅れる危険があります。
あなたが手術に二の足を踏んでいる直感は、あながち間違っていないかもしれません。ただ『怖いから避ける』ではなく、『原因が特定されてから判断する』という理由で保留にしてほしいのです。
少し意外に聞こえるかもしれませんが、下顎後退タイプのイビキは、歯列矯正によって改善するケースがあります。上顎を拡大することで舌の収まるスペースを広げたり、下顎を前方に誘導したりすることで、気道が物理的に広がります。近年は成人でも使えるMARPEという口蓋拡大装置でも一定の効果が報告されています。もちろんこれも、骨格に原因がある場合の話です。
ご質問の中で、もう一点気になったことがございます。
「睡眠時のHRVが80~150」とお書きいただきましたが、これは何のデバイスで計測していますか。Apple Watchであればミリ秒(ms)単位での表示が標準ですが、その場合この数値は成人の平均より高い部類になります。
一方、GarminやOura Ringなど機器によっては独自のスコア表示を採用しているものもあり、同じ数字でも意味がまったく違ってきます。睡眠の質の評価にも関わってきますので、お使いの機器と表示単位を一度確認してみてください。
あれこれ試して改善しないと、気持ちが焦って先走ってしまうものです。でも、だからこそ一度立ち止まってください。
枕も、マウスピースも、友人の手術の話も、あなたの原因に合っているかどうかがまだわかっていません。
まずは冷静に、原因の分析から始めましょう。そこからです」
▽Q.8▼▽
65歳の母の体についてご相談です。母は変形性膝関節症と診断され痛みを改善したいと望んでいます。体の詳細データがなく申し訳ないのですが、わかっていることを記載します。
·体格は肥満気味、膝は5~6年前に発症。歩行時、長時間立ってる時に痛みあり
·食事例
(朝)食パン、豆乳、青汁、ゆで卵、納豆、黒酢、もずく
(昼)うどん、素麺など、漬物
(夜)サラダ、焼魚
·運動量
水中ウォーキング90分/週2回。
5,000~7,000歩/日 家事程度
·既往歴
乳癌(4年前発見→乳房全摘出。2~3ヶ月に1回ホルモン剤、半年に1回血液検査、マンモ等検査)
右手手根管症候群(4~5年前発症。痺れ)
膝関節症(5週間毎にヒアルロン酸注射、フェルビナクスチック軟膏3%を塗布)
現在埼玉県内や近接県で車で通えるドクターを探しています。外科的処置の要不要含め診てもらうのと並行し、現状の把握と食事改善について母と一緒に進めたいです。医療機関を選ぶときの基準や質問の仕方などありましたらご教授いただけましたら幸いです。
【 A 】
このご質問には、病理での知見を精密栄養学に活用している村上芙美先生にお答えいただきます。
「お母様の日々の痛みを心配し、気遣いを行動にうつしている質問者様のお気持ちは本当に素晴らしいと思います。今回は、お母様がこれから安心して治療に向き合えるような医療機関の選び方と、精密栄養学の観点から今すぐ日常生活に取り入れられる食事改善のポイントについて、お伝えしていきます。
まずは、5~6年前から続く変形性膝関節症について、外科的処置の必要性も含めた現状を正しく評価してくれる医師との出会いが最優先になります。
埼玉県内や近隣で受診先を探される際は、整形外科の中でも特に『膝関節』を専門とされている先生や、人工関節などの手術実績が豊富な病院を一つの目安にしてみてください。手術の選択肢をしっかりと持っている病院は、重症度の見極めや、どのタイミングで保存療法から切り替えるべきかの判断が非常に的確です。
また、乳がんのホルモン療法を継続されているとのことですので、万が一の際にも乳腺外科や基幹病院とスムーズに医療連携が取れる総合病院、あるいはそうした連携体制を持つクリニックを選ばれると、より大きな安心に繋がります。同時に、膝への負担を減らすための体の使い方をマンツーマンで指導してくれる、理学療法士のリハビリ体制が充実しているかどうかも大切なポイントです。
限られた診察時間の中で主治医の先生から的確な方針を引き出すためには、聞きたいことをあらかじめメモにして持参するのがおすすめです。
『現在の私の膝の進行度はどの段階で、保存療法で維持を目指す時期なのか、あるいは外科的処置を具体的に検討すべき時期なのか』という現在の立ち位置をまず質問し、確認してみましょう。その上で、『ホルモン治療中であることによる制限の有無」や、『現在の水中ウォーキングや家事の歩数が今の膝の状態に対して適切かどうか』を直接確認してみると、今後の生活の明確な道標になります。
次に食事改善についてですが、変形性膝関節症において『体重を減らすこと』は、痛みを根本から和らげるために何よりも優先すべき、非常にインパクトの大きい治療法です。正確な体重は分かりませんが、質問者様からみて『肥満気味』と思える体格の場合、思った以上に標準体重より重い可能性があります。歩くとき、膝には体重の数倍もの負荷がかかるため、わずか数キロの減量であっても、お母様の膝のラクさは劇的に変わります。
お母様の食事例を拝見すると、朝食の卵や納豆、夜の焼魚などはタンパク質や抗炎症の観点から素晴らしい選択をされています。見直したい最大のポイントは、うどんや素麺、漬物だけで済ませている『お昼ご飯』です。ここで単品の糖質(麺類)を重ねてしまうと、血糖値が急上昇して体に脂肪を溜め込みやすくなり、減量の大きな妨げになってしまいます。また、お母様の健康的な減量には『筋肉を落とさずに脂肪だけを落とすこと』が不可欠ですが、今の昼食ではそのためのタンパク質が不足しています。
お昼の麺の量を半分に減らし、その代わりに温泉卵やサバ缶、サラダチキンといったタンパク質と、お野菜を1品プラスしてみてください。これだけで血糖値のスパイクを防ぎ、体が脂肪を燃やしやすい体質へと変わっていきます。夕食や朝食の優れた栄養バランスはそのまま継続して活かしていきましょう。
一度にすべてを変える必要はありません。『お昼の麺を減らしてタンパク質を足すこと』と、『信頼できる膝の専門医を一度受診してみること』。この具体的な一歩から、お母様に寄り添いながら一緒に進めてみてください。
お母様の痛みが少しでも和らぐよう、心より応援しております。どうぞお大事になさってください」
▽Q.9▼▽
以前メールマガジンで液体だけで生活していたり、あごだしの特製スープをボトルに入れて持ち歩き一日かけて飲むとありましたが、今現在私はケトジェニックダイエットをしていてケトン値も順調に10ミリモル以上にはなっているような状況です。
それゆえ厳密にフリースタイルリブレなどで測ってはいませんが、おそらく血糖値に関してはかなり安定していて、あまりお腹が空かないような状況にはなっています。
ダイエット中なのでそれ自体は問題ないのですが、胃液が出すぎているのか胃の中が空っぽにしているとかなり荒れてるのか胸やけするような環境です。
酷いと寝れないときもあります(もちろんその時は何か固形物を入れますが、、、)
もし何か工夫していることがあるようでしたら教えていただけると幸いです。
【 A 】
このご質問は、救急現場経験から予防医療の重要性を痛感している和田 憲先生にお答えいただきます。
「まず、ここまでしっかりケトジェニックダイエットを継続されていること、本当に素晴らしいと思います。空腹感が落ち着き、代謝がしっかりケトン体利用へ切り替わっていることがうかがえます。
ただ胃腸症状があり、ときには睡眠にも影響しているという点は注意が必要です。
ケトジェニックダイエットは、ケトン値を上げること自体が目的ではなく、体調や生活の質を改善するための手段です。そのため、もし睡眠を妨げるほどの胃腸症状が続いているのであれば、それは体からのサインで一度立ち止まって現在のダイエットを見直した方がよいでしょう。
また、血中ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)が本当に10 mmol/Lを超えているのであれば、一般的な栄養学的ケトーシスとしてはかなり高い値です。
胸やけの原因としては、
・高脂肪食によって胃の内容物の排出が遅れ、胃酸が逆流しやすくなっている
・高タンパク·高脂質食によって胃酸分泌が増えている
・MCTオイルやバターコーヒーなどが胃腸を刺激している
などが考えられます。
もしMCTオイルやバターコーヒーを積極的に摂取されているのであれば、まずは摂取を中止して胃腸症状が改善するかを確認しましょう。
また、現在のケトン値が事実であれば、脂質摂取は十分すぎるほど達成できている可能性がありますので、無理に高脂質状態を維持するよりも、脂質量を少し減らしながら糖質量を増やし、胃腸症状や睡眠の改善を優先していただきたいと思います。
ここまでの取り組みが無駄だったという意味では決してありません。むしろ、とても努力されているからこそ、今はさらに追い込む段階ではなく、ご自身の身体のサインを大切にしながら軌道修正する段階のように感じます」
▽Q.10▼▽
2025年11月月末ごろから急に両腕が上に上がらなくなり、12月には夜間痛で眠れなくなり、年末に整形外科でレントゲン検査で肩周囲炎と診断されました。拘縮がひどく、リハビリもステロイド注射も効かず、右は前方40度、横10度しか上がらず、左も前方60度、横10度程。両肩にため、右肩だけでも関節包切除手術を受ける予定をしていましたが、病院を変えて診察した所、肩鍵盤損傷でした。
1月から鍼灸治療も併用して行い、2026年4月上旬に右肩だけサイレントマニピュレーションを受け、自力で右は前方80度、横40度まで回復、左は前方120度、横70度程まで回復しましたが、右肩がなかなか良くなりません。
リハビリだけで良くなりますか?
【 A 】
このご質問には、神経内科·救急医療を専門とする冨安泰生先生にお答えいただきます。
「結論から言うと、リハビリだけで良くなる可能性はありますが、右肩は『リハビリだけで粘ってよい状態か』を一度再評価した方が良いです。左肩は前方120度まで戻って回復軌道に乗っているので、リハビリ継続で改善が期待できます。
理由は、当初は凍結肩(肩関節周囲炎)として治療されていたものの、後から腱板損傷と分かったからです。凍結肩は関節の袋が硬くなった“錆びた蝶番”で、リハビリ·注射·サイレントマニピュレーションで動きが戻ります。腱板損傷は腕を上げる腱の“切れたワイヤー”で、可動域訓練をしても断裂が大きいと自力で上げる力は戻りにくいです。見分ける点として、「他人に動かしてもらえば上がるのか自力では上がらないのか」が挙げられます。
受動的には上がるのに自力で80度止まりなら、拘縮よりも腱板機能不全の影響が強い可能性があります。右の前方80度·外転40度は、まだ生活に支障があるレベルです。なおサイレントマニピュレーションから約2か月なので、痛みで力が入りにくく一時的に伸び悩むこともあり、まずは質の高いリハビリを一定期間続けて判断します。
AAOSの2025年腱板損傷ガイドラインでは、小~中サイズの全層断裂はリハビリでも手術でも改善する一方、保存療法では5~10年で断裂サイズ·筋萎縮·脂肪変性が進むことがあるとされています。小断裂ならリハビリで粘れますが、大断裂や筋萎縮·脂肪変性があると放置で症状が悪化します。
また、凍結肩へのサイレントマニピュレーションは、最新の診療指針でも有効性の根拠は限定的で、骨折や腱板損傷の拡大などの合併症リスクがあり慎重に行うべきとされています。右肩は腱板損傷が分かった上でサイレントマニピュレーションを受けているので、施術前のMRIと今を比べ、断裂が広がっていないかを確認することが特に大切です。
そこで、MRIまたはエコーで、①どの腱の損傷か②部分断裂か全層断裂か③断裂サイズ④腱の引き込み⑤筋萎縮・脂肪変性⑥拘縮の残り具合、を確認しましょう。また、両肩の強い拘縮では糖尿病・甲状腺疾患との関連が指摘されており、まだ血液検査で確認をしてなければHbA1c・空腹時血糖・TSH・FT4など糖尿病、甲状腺機能のチェックも一度、行うことをお勧めします。
鍼灸は痛み·夜間痛·筋緊張をやわらげ、リハビリを進めやすくする補助としては有用ですが、切れた腱を治す治療ではない点は理解しておいてください。
私なら、右肩は肩関節専門医にMRI画像を持参してセカンドオピニオンを受けます。小~中断裂で筋力が残り、受動可動域も改善傾向なら、あと2~3か月のリハビリ継続は妥当です。逆に、全層の大断裂、強い筋力低下、夜間痛の持続、受動では戻ったのに自力で上がらない、筋萎縮·脂肪変性があるなら、腱板修復術や関節鏡下手術を再検討する段階です。
焦らず、しかし『リハビリだけ』と思い込まず、右肩は一度、画像で再確認してもらうのが、遠回りに見えて確実です」
▽Q.11▼▽
いつもメルマガを拝読し、自分の健康習慣を見直すきっかけにさせていただいています。
私は今年で50歳になります。ここ5年ほど勃起力の低下を感じており、現在はED薬を使うことで性交自体は問題なく行えていますが、将来的には薬にあまり頼らずに済む状態を目指したいと考えています。
対策として、有酸素運動や筋トレなどの運動習慣をつけることが重要だと理解しており、少しずつ生活に取り入れ始めています。
一方で、生活習慣やコンディショニングの面で、運動以外にどのようなアプローチが考えられるのかを知りたいと思っています。例えば、食事、睡眠、ストレス管理、ホルモン(テストステロン)ケア、サプリやメディカルチェックなど、どのあたりを優先して整えていくべきとお考えでしょうか。
「薬に頼りすぎない体づくり」の考え方や、具体的な習慣づくりのヒントがあれば教えていただけると嬉しいです。
【 A 】
このご質問には、全体のバランスを重視した診療を行っている柴田健了先生にお答えいただきます。
「まず現在の状況を整理させていただくと、ED薬を使えば性交が問題なく行えているということは、『勃起の仕組みそのものが壊れているわけではない』ということです。ED薬(PDE5阻害薬)は、勃起に必要な一酸化窒素(NO)の働きを長持ちさせる薬です。NOを増やす薬ではありません。つまり今のあなたには『NOは出ているが、量や持続時間が足りていない』という状態が起きていると考えられます。
では、なぜ40代半ばごろから勃起力が落ちてきたのか。これは一つの原因ではなく、複数の変化が同時に進行した結果です。
男性ホルモン(テストステロン)は30代後半から微量ずつ、しかし確実に低下していきます。特に生理的に活性のあるフリーテストステロンは、総テストステロン以上に急速に低下します。テストステロンは性的刺激への中枢感度を維持するだけでなく、内皮型NO合成酵素(eNOS)の発現量そのものを支えています。テストステロンが落ちると、NOを作る『工場の能力』が静かに低下していきます。これに内臓脂肪の蓄積が重なると、アロマターゼという酵素の活性が高まり、テストステロンがエストロゲンに変換されやすくなります。
さらに内臓脂肪は慢性炎症の発生源となり、血管内皮を傷害してNO産生を抑制します。インスリン抵抗性が加わると、eNOSが『アンカップリング』という機能不全状態に陥り、NOではなく逆に活性酸素を産生するようになります。テストステロン低下と内臓脂肪増加は互いを悪化させる関係にあるため、この悪循環は静かに、しかし確実に進みます。
あまり知られていませんが、睡眠の質の低下も大きく関与しています。睡眠中に起きる夜間勃起(睡眠関連勃起)には重要な生理的意味があります。勃起のたびに海綿体の酸素分圧は弛緩時の25~40 mmHgから90~100 mmHgへと上昇し、この酸素供給が陰茎組織の線維化を防いでいます。
夜間勃起が減ると海綿体が低酸素状態に繰り返しさらされ、TGF-β1という因子を介してコラーゲン合成が促進され、平滑筋が線維に置き換わっていきます。『使わないと失われる』——陰茎の機能にもこの原則が当てはまると考えられます。
50代前後はREM睡眠の断片化や睡眠時無呼吸症候群の合併が増える時期でもあり、夜間勃起の頻度と質が直接低下します。さらに産生されたNOは加齢とともに蓄積する活性酸素(ROS)と即座に反応して失活するため、酸化ストレスの増大が内皮機能をさらに弱めます。
そして心理的な悪循環も見逃せません。『うまくいかないかもしれない』という不安は交感神経を活性化させます。交感神経が優位になると陰茎への血流は積極的に遮断されます——勃起は副交感神経が優位なときにしか起きないからです。一度の失敗体験がパフォーマンス不安を生み、不安が交感神経を優位にし、次も失敗する。心因性と器質性は「どちらか」ではなく、互いに絡み合いながら悪化していきます。
こうした複合的な変化を踏まえると、対策には順番があります。
最も優先すべきは睡眠とストレスの管理です。臨床研究では、健康な男性が1週間5時間睡眠を続けるだけで、日中のテストステロンが10~15%低下することが示されています。睡眠はテストステロン産生の場であり、夜間勃起による陰茎メンテナンスの場でもあります。
いびきや日中の強い眠気がある場合は、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングも検討してください。ストレス管理も同様に重要です。心因性EDの患者では交感神経過活動と迷走神経機能低下が実測値として確認されており、『気持ちの問題』にとどまらない自律神経レベルの障害が生じています。この土台なしには、他の対策の効果も十分に発揮されません。
その上で、血管の質を上げる取り組みが続きます。有酸素運動はNO産生の『トレーニング』そのものです。血流によって血管壁に生じるせん断応力がeNOSを活性化し、内皮機能を構造的に改善します。既に運動を生活に取り入れ始めているとのこと、その方向は間違っていません。食事面では血糖・脂質の管理が最優先です。高血糖はeNOSのアンカップリングを引き起こし、高LDLは活性酸素産生を増やしてNOを失活させます。
『血管を守る食事』がそのまま勃起力を守る食事と一致します。内臓脂肪を落とすことはアロマターゼ活性の抑制にも直結し、テストステロン→エストロゲン変換の悪循環を断ち切る最も確実な手段でもあります。
ホルモン軸の維持も並行して意識してください。筋力トレーニング(特に下半身・体幹の複合動作)はテストステロン分泌を刺激します。栄養面では亜鉛・マグネシウム・ビタミンDの3つが柱になります。
亜鉛はステロイド合成酵素の補因子であり、アロマターゼの自然阻害因子でもあります。マグネシウムもテストステロン合成に関わる補因子で、睡眠の質にも影響するため、睡眠改善との相乗効果が期待できます。
ビタミンDはライディッヒ細胞のLH感受性に関与しており、日本人の多くが不足しています。一度、血液検査でテストステロン(総·フリー)·亜鉛·マグネシウム·ビタミンDを確認しておくことをおすすめします。数値で現状を把握することが、的外れな対策を避けるためにも重要です。
こうした土台が整った上で、栄養によるピンポイントの補強が活きてきます。シトルリン(L-citrulline)はアルギニンよりも効率的にNOの基質を供給します。腎臓でアルギニンに変換され腸管での初回通過代謝を回避できるためで、臨床研究で海綿体動脈の血流依存性血管拡張の有意な改善が確認されています。
EPA/DHA(オメガ3脂肪酸)はeNOSを活性化し、抗炎症作用を通じた内皮保護効果もあります。
葉酸+ビタミンB12はホモシステインの代謝に不可欠です。ホモシステインはeNOSを阻害し内皮障害を引き起こす独立したリスク因子で、50代はB12吸収が低下しやすくホモシステインが蓄積しやすい時期です。血液検査でホモシステイン値を確認することも合わせてお勧めします。
ED薬が効いている今は、まだ自前のNO産生能力が残っている段階です。裏を返せば、今が最も介入の効果が出やすいタイミングでもあります。ここで紹介したアプローチはどれも『薬で補っている機能を、自分の体が本来持っている仕組みで取り戻す』ためのものです。すべてを一度に始める必要はありません。まず睡眠とストレスという土台を整えることから始めてみてください」
▽Q.12▼▽
2人の子供を年子で授かりました。1人は1歳8ヶ月で、1人は2ヶ月半です。人生に新たな彩が生まれています。一つご相談です。2人目の子供が生まれたてからNICU(呼吸器系です)に1週間入院し、先日ロタウィルスで胃腸炎になり、救急車搬送されました。1人目の子供に比べると落ち着いている感じもあり、今後似たような病状が起きないか心配です。年子の子育てにおいて、病気になりがちな子供を育てる上で気をつけるべきことなどがあれば教えていただきたいです。
【 A 】
このご質問には、病理専門医であり、3人の子育てをしている村上芙美先生にお答えいただきます。
「まずは、年子のお子様たちのご誕生、心からおめでとうございます。1歳8ヶ月と2ヶ月半という、まさに今が一番手がかかりつつも、本当に可愛く幸せな時期ですね。下のお子様が誕生直後にNICUへ入院され、さらにロタウイルスでの救急搬送があったとのこと、本当にご不安で大変な想いをされたことかと思います。
相次ぐ体調不良に『これから先も同じようなことが起きたらどうしよう』と心配になるお気持ちは、親として当然のことです。生後2ヶ月半のお子様は、まだ自分自身の免疫システムが未熟な状態です。さらに呼吸器系の既往があったり、ロタウイルスのような強い感染症にかかった直後だったりすると、体力を消耗している分、一時的に他の病気をもらいやすくなっている面は確かにあります。
年子育児において、今後の感染症リスクを物理的に下げるために意識したいのは、『上のお子様からの家庭内感染』をコントロールすることです。1歳8ヶ月の上のお子様は、外の世界からウイルスを持ち込むメッセンジャーでもあります。
まだ完璧な手洗いは難しい年齢ですから、上のお子様が帰宅した際は手を丁寧に拭いてあげること、そして下のお子様と共有するおもちゃやスペースを、無理のない範囲でこまめに拭いたり換気したりしてみてください。それだけで、下のお子様が受けるウイルスの量を大幅に減らすことができ、大きな予防に繋がります。
そして、最もお伝えしたいことがあります。それは、お子様の健康を守るためには、何よりも『ママご自身の栄養と休息』が不可欠であるということです。年子の育児、しかも下のお子様の看病が重なる生活は、想像を絶するほどにエネルギーを消費します。
ママの体内で慢性的な栄養不足や疲労が蓄積すると、心の余裕が失われ、睡眠の質が落ち、結果としてご自身の免疫力も低下してしまいます。ママ自身のタンパク質やビタミンB群、鉄分の不足は、日々のパフォーマンスとメンタルの安定に直結します。手軽に摂れるゆで卵やプロテイン、サプリメントなども上手に活用しながら、まずはママがエネルギー切れを起こさないように、ご自身を最優先で労ってあげてください。
今は先のことが見えずに不安が膨らむかもしれませんが、子供の免疫システムは、様々な菌やウイルスと出会いながら、1歳、2歳と成長するにつれて確実に強く、たくましく育っていきます。数年後には「あの頃は本当に大変だったね」と笑って振り返られる日が必ず来ます。
一人で抱え込まず、周りの頼れる手を借りながら、日々の生活を過ごしていきましょう。心から応援しております」
▽Q.13▼▽
3年前に食道がんステージ1になり、内視鏡でガンを摘出しましたが、若干の浸潤が有ったので予防的に抗がん剤と放射線治療を受けました。Q&Aのアドバイスも有りケトジェニックを行っていました。
昨年6月にガン検診の2回目も受け良好に思われましたが、2週間前から声が出にくくなったので、本日造影剤CT検査を受けました。結果リンパにガンが転移していました。やはりリンパ転移にはケトジェニックが効かなかったのでしょうか?
またはここ半年くらいから少し運動前に甘い物を摂取したり、ここ3ヶ月くらいは甘い物の摂取量が増えていました。この短期間の甘い物の摂取の影響も有るのでしょうか?
来週、もう一度主治医と今後の方針を決めて行きます。抗がん剤治療になるかと思われます。
また、Google Aiの情報では、リンパ節転移などの「転移」に関しては、むしろ注意が必要なデータが出てきています。以下、「転移促進の可能性:2024年の研究(コロンビア大学など)では、マウス実験においてケトジェニックダイエットが原発巣の腫瘍は小さくしたものの、肺などへの転移を大幅に増やしたという驚きの結果が報告されました。これは、特定のタンパク質(BACH1)が反応し、がんの移動能力を高めてしまうためと考えられています。」との事です。是非見解をお聞かせ下さい。
【 A 】
このご質問には、放射線科診断専門医の上條崇裕先生にお答えいただきます。
「『2週間前から声が出にくくなった』という経過からは、106recリンパ節再発による反回神経麻痺を考えます。
声帯を動かす反回神経がこの領域を走行しており、このリンパ節が腫れると声がかすれたり出にくくなることがあります。
今回の造影CTで反回神経近傍のリンパ節転移が確認されていれば、声の経過とも合致します。
画像所見をぜひ主治医にご確認ください。
食道癌は比較的リンパ節転移を来しやすい癌で、106リンパ節はとりわけ転移頻度の高いものです。
私の専門は画像診断ですが、食道外科医からの読影依頼に「106リンパ節を特に注意して評価してほしい」という文言を頻繁に見ます。
それだけ既知のハイリスク領域だということです。
さて、ご質問にお答えします。
まず甘い物について。ここ3ヶ月の糖摂取の増加が今回の転移を引き起こした、という可能性は考えにくいです。糖とがん進展を結びつける疫学データは一部に存在しますが、それは主に肥満・炎症・高血糖を介した長期的·慢性的影響であって、数ヶ月程度の摂取で癌の転移を誘発するという話ではありません。
3年前の時点で浸潤があったということは、食事内容にかかわらず、相当の確率でリンパ節転移が起こりうる状態がもともとあったということです。
次にケトジェニック食について。引用された論文も拝読しました。これは乳癌と肉腫のモデルマウスを用いた研究で、原発巣は縮小したが肺転移が増悪し、BACH1というタンパク質の関与が示唆された、という内容です。ただ、この論文をそのままご自分に当てはめる必要はありません。マウスとヒトでは代謝が異なり、対象も乳癌·肉腫であって食道扁平上皮癌ではないからです。そして食道扁平上皮癌では、ケトジェニック食が転移に効いた・効かなかったを判断できるヒトのデータが、そもそも存在しません。つまり今回の転移を『ケトジェニックのせいだ』と言える根拠は、現時点でどこにもないのです。どうか、ご自分の食事内容を責めないでください。
おそらくこれから化学療法をお受けになると思います。どの薬剤でも副作用はほぼ必ず起こります。今は食事内容の最適化に悩むより、これから受ける治療に備えて心身を整えることを優先してください。具体的には栄養状態を保ち、体重を落とさないこと。化学療法中は食欲が落ちることも多く、食事制限の優先度は下がります。
最後に、外来で主治医との対話のコツをひとつ。
質問・心配ごとを箇条書きにしたメモを持っていってください。
外来の時間は短く、いざ医師の前に座ると訊こうと思っていたことを忘れがちです。
メモを読み上げていけば漏らさず話せます。
声のことも転移のことも、ご不安は当然だと思います。
けれど、やれることはまだきちんと残っています。
一つずつ整えていきましょう」
▽Q.14▼▽
駐在でアメリカ・オレンジカウンティに在住です。3月にロスカボスへ旅行後、2歳半の娘が帰国直後から約2週間おきに高熱を繰り返すようになりました。先週土曜に3度目の高熱でERを受診し肺炎と診断されましたが、抗生物質が効かず現在PICUに入院中です。ほぼ寝たきりで、話せない・座れない・歩けない状態です。髄膜炎・脳炎・化膿性関節炎が疑われ、血圧低下のため昇圧剤・輸血も必要な状態です。医師からはまだ原因不明と言われており、髄液検査・股関節エコー・MRI(脳+脊髄)など複数の検査が予定されています。親としてどう行動すべきか、アドバイス頂けないでしょうか。
またロスカボス旅行との関連も気になっています。ずっと治らないのではと考えてしまい、胸が張り裂けそうな思いです。
【 A 】
このご質問には、脳機能向上、認知症予防を中心に診療し、3人の子育てをしている村上友太先生にお答えいただきます。
「お子様がPICU(小児集中治療室)で重症な状態にあり、原因が特定できない中での親御様の悲痛な思いは計り知れません。私自身も医師として、また一人の親として、心中察するに余りあります。
高熱の繰り返しや抗生物質が効かない点、運動·言語の症状、血圧低下などから、一般的な肺炎ではなく、髄膜炎、脳炎、脊髄炎、敗血症、重症ウイルス感染やその後の免疫反応などを広く疑う病態と思われます。現在予定されている髄液検査、脳·脊髄MRI、股関節エコーは、原因を絞り込むうえでいずれも非常に重要な検査です。
親御様が今できる最も重要な行動は、『旅行の詳細なタイムラインを医療チームに共有すること』だと考えます。
ロスカボスでの宿泊先、プールや海での遊泳、食事、虫刺されや動物との接触などを時系列のメモにし、担当医や感染症科の医師に直接お渡しください。診断を大きく前進させる手がかりになる可能性があります。
現時点で2026年3月のロスカボス特有の大流行と断定できる情報は確認できませんが、メキシコ渡航歴からはデング熱や麻疹、リケッチア、特殊な真菌なども鑑別に挙がります。帰国後に別の感染症に罹患した可能性も含め、旅行との関連は医療チームに判断を委ねるのが良いと思います。
今は診断がつくまでの最も苦しい山場ですが、2歳半という年齢は脳や身体の回復力(可塑性)が驚くほど高い時期です。原因さえ確定すれば、抗ウイルス薬や免疫グロブリン、ステロイドパルス療法など、適切な治療へ確実に移行できます。
現時点では、現地の医療チームに全幅の信頼を寄せ、お子様が診断という次のステップに到達し、回復へ向かう力を信じて見守り続けてあげてください。日本の地から、お子様の回復を心よりお祈りしております」
▽Q.15▼▽
幼少期からの神経質な性格に加え、19歳の時に外食先で嘔吐したトラウマから、食事や逃げ場のない場所(車·電車等)で激しい吐き気を催す『特異的恐怖症』を抱えています。現在も精神障害2級の状況にありますが、自宅で家族と食事を楽しめるまで回復し、会社勤務もできています。今の願いは『ふらっと店に入り、お腹いっぱい美味しく食べること』です。30年付き合ってきたこの症状と、うまく共存したいと考えています。
ご相談は、強い嘔吐反射やパニック症状のため、内視鏡やバリウム等のがん検診が受けられないことです。血液や尿で検査する『リキッドバイオプシー』を検討していますが、精度面で従来検査に及ばないとの回答でした。それでも何もしないよりは価値があると考えています。おすすめの検査機関や、私の状況に合った検診への向き合い方について、ご意見をいただけますでしょうか。
【 A 】
このご質問には、日本精神神経学会専門医、指導医の阿部美緒先生にお答えいただきます。
「ご家族と食卓を囲めるようになり、お仕事も続けられているとのこと、30年間向き合い続けてこられ、本当に大きなご回復をされたこと、尊敬いたします。
一般論として、実際にできている病変を発見し、その場所や大きさ、性状を評価する能力は、内視鏡や画像検査の方がリキッドバイオプシー検査よりも優れています。一方で、強い嘔吐恐怖やパニック症状のため標準検査が難しい方にとって、これらの検査は『何も受けない』と『標準検査を受ける』の間をつなぐ選択肢になり得、結果に応じて追加検査を検討するなど、ご自身の健康に目を向けるきっかけとして活用する意義はあると思います。
また、標準検査の中にも、便潜血検査やCT、腹部超音波など比較的受けやすい検査はありますし、上部·下部内視鏡も静脈麻酔下で受けられる施設があります。お住まいの地域で検索してみてくださいませ。
精神科主治医と相談し、普段使い慣れた抗不安薬を検査前に頓服する方法もよく用いる選択肢の一つです。いきなり内視鏡を目指す必要はなく、CTや歯科受診など短時間で終わるものから経験し、『大丈夫だった』という成功体験を積み重ねることが、次の一歩につながります。
そして、『ふらっとお店に入り、お腹いっぱい美味しく食べたい』という願いは、きっと叶いますよね。認知行動療法や曝露療法は続けることが大切なようで、少しずつ行動範囲が広がる方は少なくありません。
まずはお気に入りのカフェで飲み物を一杯飲む、アイスやデザートを食べる、軽食を少し食べるなど、小さな成功体験を積み重ねてみてください。
『お店に入り、10分はいられた』『一口楽しめた』という行動そのものを成功として認めることが、『ここは安全』という新しい記憶を脳に育ててくれます。気になるお店にふらりと入り、楽しめる日が来ることを心よりお祈り申し上げます」
▽Q.16▼▽
長年、乾癬を患っております(※患部15%~20%程度)。対症療法のステロイド治療に疑問を感じ、距離を置いて自力での改善に注力してきましたが、最近は好転の兆しが見えず難しさを感じています。QOL向上のため『生物学的製剤』等の化学療法や光線療法へ進むのは合理的でしょうか。副作用などの不安もあり悩んでいます。化学療法などを併用した方がよいでしょうか?
【 A 】
このご質問は神宮前統合医療クリニック院長の三輪桜子医師にお答えいただきます。
「長年の皮膚疾患との闘い、私も長年のアトピーがありますので、苦しみよく分かります。
患部15%~20%でありますと、一般的には中等症~重症乾癬に分類されます。患部の場所にもよりますが、日常生活がたちゆかないくらいの重症度であれば、生物学的製剤も視野に入れた方が良いかと思います。光線療法は基本的には副作用がないので良いかと思いますが、通院頻度が多く、なかなか大変かとは想像します。
ステロイドと距離を置いている中で、ご自身のなかでまだ『生物学的製剤を試す前に何か試したい』とお考えでしたら、瀉血という選択肢もございます。乾癬に対して確立した標準治療というわけではないのですが、一般に自由診療の枠組みでは、瀉血療法を中心に薬剤を使用しない治療を目指しています。
また、当院では血液検査の結果から炎症の程度や肝機能などを確認し、お一人おひとりの状態に合わせた治療や栄養指導をご提案しています(血液精密栄養検査:税込27,500円、カウンセリング:税込41,800円)。よかったらご検討ください。一刻も早く皮膚疾患がおさまることをお祈りしております」
▽Q.17▼▽
60代前半の母が卵巣がんのステージ3Cと診断されました。今、仕事がつかないくらい、頭が真っ白になっています。本人はまだ冗談も言えるくらい元気ですが、これから抗がん剤治療を3クールやった後、手術で卵巣を全摘出する予定です。色々と調べると、5年後の生存率が半分以下という情報も出てきて、家族全員とても不安になっています。
そして、私自身は先日、会社から海外赴任を言い渡され、これから日本を離れます。父や祖父母、兄妹は母のそばにいてくれるものの、そのような状態の母に万が一のことがあった場合、私は看取れないのではないかとも思います。何が問題かも整理できていないことは重々承知していますが、何でも良いので私にアドバイスをください。
【 A 】
このご質問には、神経内科·救急医療を専門とする冨安泰生先生にお答えいただきます。
「ご相談、ありがとうございます。そして、まずお伝えしたいことがあります。
これだけのことが一度に押し寄せている中で、『何が問題かも整理できていない』と書きながらも、ちゃんと言葉にして相談してくださったこと自体が、もう十分に立派な一歩です。
お母様のご病気、ご自身の海外赴任、健康への不安。どれか一つでも重いのに、今は全部が同じ時期に重なっています。頭が真っ白になるのは、あなたが弱いからではありません。情報と感情の負荷が一度に来すぎているだけです。
一つずつできるだけ正確に、そして直ぐに実行できる形でお答えします。
1)お母様の卵巣がん(ステージ3C)について
ネットで見た『5年生存率が半分以下』という数字は、まったくの嘘ではありません。国立がん研究センターの院内がん登録(2014~2015年診断)では、卵巣がんⅢ期全体の5年生存率(ネット·サバイバル)は46.9%と報告されています。
しかし、これは過去の患者さんの集団平均であって、お母様一人の余命ではありません。国立がん研究センター自身も、『この数字は過去のデータであり、治療法の進歩によって、今これから治療を受ける方にそのまま当てはまるとは限らない』と明記しています。
そして、お母様の予後は、診断時のステージだけでなく、手術でどれだけ取りきれるか(肉眼的な残りがゼロにできるか)、がんのタイプ、BRCA/HRDという遺伝子の状態、抗がん剤への反応といった、これから分かっていく要素で大きく変わります。だからこそ、今は『46.9%』という平均に飲み込まれるより、お母様個別の状況を一つずつ確認していくことが大切です。
今の治療方針(抗がん剤を数クール → 手術)は、進行卵巣がんでは標準的で、理にかなった順番です。
米国臨床腫瘍学会(ASCO)の2025年の最新ガイドラインでも、最初から手術で取りきるのが難しい場合などには、先に術前化学療法(多くはカルボプラチン+パクリタキセルというプラチナ+タキサン系)を行い、4コース以内をめどに手術(腫瘍減量手術)を行うこと、抗がん剤は合計6コース程度を目安にすること、そして全員に遺伝子·腫瘍の検査を提案することが示されています。
お母様の方針は、この国際的な標準と合致しています。
海外赴任のことを『看取れないかもしれない』というところまで一気に考えると、心が先に壊れてしまいます。今この瞬間に必要なのは、これから治療開始~手術までの数か月をいかに支えていくかと気持ちを前向きのギアに変えていくことです。
例えば、あなたが海外にいてもお母様に対して以下のようなサポートは充分可能です。
治療日·副作用が出やすい日·外来日をカレンダーで共有する『情報整理係』
主治医に聞くことを家族で集約する『質問リスト作成係』
家族LINEで経過を記録する『記録係』
これは単なる事務作業ではありません。家族が不安で頭が真っ白になったとき、治療の流れや体調の変化が見える形で残っていることは、医療判断を支える大きな力になります。現地にいられないあなたにも、家族の混乱を減らし、お母様が安心して治療を受けるための役割は確実にあります。
そして、ここで大切なのが緩和ケアです。
緩和ケアは『もう治療ができなくなった人のための医療』ではありません。がんに伴う苦痛は、痛みや吐き気、息苦しさ、倦怠感といった身体の苦痛だけではありません。
『治るのか』『家族に迷惑をかけるのではないか』『仕事や生活はどうなるのか』『自分らしくいられるのか』といった不安、孤独、役割喪失、経済的·社会的な心配まで含まれます。これらをまとめて、緩和医療では全人的苦痛、トータルペインとして捉えます。トータルペインは、身体的·心理的·社会的·スピリチュアルな苦痛が互いに影響し合うという考え方です。
だからこそ、緩和ケアは『最後に使うもの』ではなく、がんと分かった時点から、抗がん剤や手術と並行して使うべき支援です。実際、ASCOのガイドラインでも、進行がん患者ではがん治療の早い段階から緩和ケアを統合することが推奨されております。
今いちばん実務的にできることは、主治医に次を確認して家族で共有することです。これ自体が、ご家族にとって非常に大きな安心材料になります。
▪️がんのタイプ(高異型度漿液性がんか、その他か)
▪️BRCA1/2・HRDなどの遺伝子検査を行うか(※これは抗がん剤後の維持療法の選択を左右するだけでなく、血縁のご家族の将来にも関わる大切な検査です)
▪️抗がん剤の名前(カルボプラチン+パクリタキセルなどか)
▪️何コース後に、何で効果を判定するか(CT·腫瘍マーカーCA125·症状など)
▪️手術の目標(肉眼的な残存をゼロにできそうか)
▪️術後の維持療法(PARP阻害薬〔オラパリブ、ニラパリブなど〕やベバシズマブ。※どれを使うかはBRCA/HRDの結果で変わります)
▪️ご自宅で発熱・強い腹痛・息切れ・止まらない嘔吐·片脚のむくみなど訴えた場合、いつ救急受診するべきか。
『お母様はまだ冗談が言えるくらいお元気』。
これは本当に大事な情報です。体力がある状態で治療に入れることは、それ自体が一つの強みです」
▽Q.18▼▽
近々サイケデリック療法を受ける予定です。また、その後には会社の制度を利用して2週間の長期休暇を取得することになりました。
療法の直後はスマホの電源を切り、静かな環境で瞑想やジャーナリングをして過ごそうと考えています。
このような「自分自身と深く向き合うゴールデンタイム」にぴったりの、おすすめの音楽や本などがありましたら、ぜひご教示いただけますと幸いです。
【 A 】
このご質問は、日·月曜日に「サイケデリック·レゾナンス」を担当している伊藤京子先生にお答えいただきます。
「サイケデリック療法の直後からしばらくの時間は、とても繊細で貴重な『統合(インテグレーション)』の期間になると思います。
そのゴールデンタイムに関しては、新しい情報や刺激を積極的に取り入れるよりも、できるだけノイズを入れないことをおすすめします。
スマホやSNSから離れ、自然の中や静かで落ち着ける場所で過ごしながら、瞑想やジャーナリングを通じて、その瞬間に湧いてくる感覚や感情をただ味わってみてください。
本についても、何かを学ぼうとしたり答えを探したりするより、「今の自分は何を感じているのだろう」ということに意識を向ける時間のほうが、後々振り返ったときに大きな意味を持つことが少なくありません。
もし一冊だけ手元に置くとしたら、レイチェル・カーソンの『センス·オブ·ワンダー』をおすすめします。この本自体が『答えを探さず、ただ感じることの豊かさ』を教えてくれます。今回のご質問へのヒントも、実はそこにあるかもしれません。
また、音楽を聴くのであれば、『おすすめの音楽』を探すよりも、そのときのご自身が自然と聴きたくなるものを選んでみてください。誰かの選曲よりも、その瞬間のご自身の感覚を信頼してみてください。
サイケデリック体験の価値は、誰かの答えを受け取ることではなく、ご自身の内側から立ち上がってくる感覚や気づきに耳を澄ませることにあるからです。
どうぞ素晴らしい休暇と統合の時間をお過ごしください!」
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■ 編集·発行元:神宮前統合医療クリニック/NEXTRAVELER株式会社
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
□ 当メルマガに関するお問合せ
https://40r312.share-na2.hsforms.com/2WWxJ-Kk7R1OzkSxzoGBWEw
□ メール購読解除はこちら
https://billing.stripe.com/p/login/5kQ6oHdhZ3KJ7c2f9C1ck00
…………………………………………………………………………………………………
『高城未病研究所』内コンテンツの著作権は、すべて編集·発行元に帰属します。
本メルマガの内容の大部分または全部を無断転載、転送、再編集など行なうことはお控えください。
商用目的ではない個人ブログやSNSでの引用は、出典を明記いただければ、問題ございません。
また、当メルマガで配信している医療、健康などの情報については、専門家への取材や高城本人の体験、見聞をもとにしておりますが、特定の企業、製品等を、具体的に推奨するものではありません。
特に医療品や医療機関の選択に当たってはご自身でご判断いただくか、かかりつけ医にご相談されることをお勧めします。
…………………………………………………………………………………………………
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃高┃城┃未┃病┃研┃究┃所┃
【Future Health Lab】
Vol.000
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【2026年7月1日発行】